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書簡 その129 下駄

僕はこの季節になると下駄を履く。素足に下駄は気持ちがいい。もっとも撮影所では役者はみんな下駄だけど・・・

時代劇の扮装で靴では不便だし、第一、格好が悪い。それでみんな下駄か雪駄になるのだが、なぜか下駄の人のほうが多い。

雪駄より高い分、ホコリがつきにくいような気がするし、チョットでも背が高く見えるという役者根性の表れかもしれない。

昔は鼻緒が傷んで、挿げ替えたものだが、現在は丈夫な鼻緒が付いているので台の方が先に傷む。

材料が悪いのか、道路がアスファルトになったためか、下駄の歯がすぐに減る。

重心によって左右どちらかに傾くか、平らに減っても真っ二つに割れる。薄くなった下駄が何処までもつか競ったりする。

銭形平次の撮影のときだった。離れたところに脱いだ下駄を、若い子に取ってくれと云うと、

傍で見ていた平次の橋蔵親分が「森チャン、それは下駄って言わないんだよ。それは板って言うんだよ」と言った。

笑いながら橋蔵さんの足元を見ると、やはり 板 だった。

後年、若い連中が自転車のゴムタイヤを切って、歯に貼るようになった(撮影所の定番になる)。

僕も貼ってもらったが背は高くなるし履き心地も悪くない。ささやかな自衛手段だが、これじゃあ下駄屋はたまらない。

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